第19回 (2009/4/17)
ワシは狸蕎麦が好物じゃ
 そう。だから僕は怒ってないよ、母さん。
『今夜は眠れない』 宮部みゆき
角川文庫 … P273
 家族の絆、というか、夫婦の絆を試すための賭け。これをすることで、雅男も苦しい思いをたくさんしたはず。
 それでも、母の悩みや苦しみを理解して許す彼に強さと優しさを感じました。
東野三鬼 14歳 女性 徳島県

コメント爺爺のコメント  最後にたどり着くものが『家族』、なんじゃろうな。どんなに辛い思いをさせられても、家族だから許せる。しっかりした立ち位置があるのはすばらしいことじゃ。

「いい子だった」と、柿崎校長は繰り返した。慰めるように。抱くように。
「本当にいい子だった。優しくて、いい子だった。いい子だったんだよ」
『模倣犯』 宮部みゆき
新潮文庫(第五巻) … P497
 ずっとずっと○○○○(ネタバレにつき、伏せ字にさせていただきます)の死にやりきれない思いを抱いていました。
 その思いがこの柿崎校長のセリフを読んだ瞬間、ぶわっと溢れ出て、自分でもびっくりするくらい泣いていました。
 そう、いい子だった。その言葉がずしんときます。
ミホ 22歳 女性 広島県

コメント爺 爺のコメント 人生には理不尽なことがいっぱいあるのじゃ。
「なぜ?」と、どんなに考えても答えがでなかったときの心の叫び、だったのじゃろうな。割り切れる人生などないのかもしれん。

「リュウ、殺されたことは恥でも何でもない。誰だって弱い部分を攻められれば殺される。誇りをもって死んでいければ、その方がむしろ幸せだというときもある」
「じゃあ、どうするんだい。やっぱり殺されたまま、生きていくのかい」
「いや、幾度殺されても、俺が生き返ったのは、たったひとつのことを、そのたびに必ずしたからだ」
「何?」
「殺した奴を、殺し返す。そして、誰でも、どんな奴でも殺されることを、自分に教えこむ」
「殺し返せなかったら? 自分だけが殺されっぱなしだったら?」
「終わりだ。人間として生きていくことはできる。だが、男としては——終わりだ」
「……終わりたくない。終わりたくないよ」
「よし。じゃあ、是蔵を殺そうぜ」
『アルバイト探偵 拷問遊園地』 大沢在昌
廣済堂ノベルス … P114
 少し長い引用になりましたが、110〜114頁の多摩川の川べりのシーンは何回読んでも涙が止まらなくなるところです。大沢氏の小説はすべて読んでいますがこれほど泣けるところはありません。
 ハードボイルドをもっとも感じるセリフです!
 父と息子の男と男の会話。僕にも息子がいますが、涼介と隆のような心の繋がりを理想として子育てをしています。
 この「アルバイト探偵」シリーズは、どれも最高ですが、今回は100万回泣けるシーンから最後の部分を選びました。涼介の軽い感じが心に響きます。
スコータイの毒猿 40歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント 第6回でも最後の部分が登場している、人気のあるシーンじゃのう。スコータイの毒猿さんも、きっと涼介のようにカッコイイ父親におなりじゃろうな。
「廣済堂ノベルス」から、ということは、かなり昔からのファンでいらっしゃるとみた。ありがたいことじゃ。

「どうも、エチオピヤでは、現金を入った鞄を床に置くと一生米の飯が喰えないという諺があるらしい」
 う——嘘に決まっている。
「ワタシコメクイタイデス」
『百器徒然袋—風』 京極夏彦
講談社ノベルス … P140
  エチオピヤ人のマスカマダ・カマスカス(のフリをしている益田)が、調子に乗って言ったこのセリフを思い出せば、どんなに疲れていても、どんなに嫌なことがあった日でも、とたんにブハァとふきだしてしまうので困ります。
 シリアスな気分になりきれないじゃないですか。まあどうでもいいか、って思っちゃうじゃないですか。
 だからこそ大好きなんです、この「ワタシコメクイタイデス」。
 いつか、音声で聞いてみたいものです。
トミヒロ 25歳 女性 静岡県

コメント爺 爺のコメント 第5回朗読会の共演バージョンで、爆笑の渦じゃったところ。とくにこの「ワタシコメクイタイデス」は、山椒大夫が熱演したんじゃあ。
 トミヒロさんは、朗読会を聞かれなかったなら、是非CDで聞いてみなはれ。ずず〜〜っと耳にこびりつきますぞ。

「時間の無駄ですよ。主人や息子のおかげで、わたしには免疫ができてますからね。それとね、昨日初対面のときにも感じたんだけど、あなた、うちで飼ってた犬のジョンに似てるんです。そりゃもうおとなしくて気だてのいい犬でした。あなたの顔を見た瞬間にジョンのことを思い出して、懐かしくってね。昨夜なんか、何年ぶりかにジョンの夢を見ましたよ。ですから、拗ねたり小理屈を並べてひねたりしてこのおばさんを挑発しても、効き目ありませんよ。はい」
『クロスファイア』 宮部みゆき
光文社文庫(上巻) … P318
 こんなこと言われたら、吹き出して全部白状しちまうしかありません!
 ぽっ、とこんなセリフを言っていや〜な空気を和ませてしまう、ちか子の主婦として、母親として、刑事としての人格がいかに熟成されたものであるかを感じました。
 結婚するならこんな人がいいよなぁ…なんて(笑)
 男性との接し方、もっと言えば操縦法をよく心得た上での、すばらしい一言だと思います。
tall 20歳 男性 広島県

コメント爺 爺のコメント  実はな、ワシもちか子さんのファンじゃ。しかも婆さん公認じゃ。というか、婆さんもちか子さんのファンなんじゃ。
 おかげで婆さんが時々ちか子さんの話術をマネて…ワシもついつい自白しちゃうんじゃよ…。ははは。tallさんよ、どうだ参ったか。

「君は狸蕎麦にしたまえ。僕は狐饂飩にしよう」
『姑獲鳥の夏』 京極夏彦
講談社文庫 … P67
 このセリフで京極堂にノックアウトされました。
 非常に賛同者が少ないのですが、若い頃から、一緒に食事に行ったとき「キミこれを食べなさい」と私の分もメニューを決めてくれる男の人が理想だったのです。でもまぁあんまりそういう人はいません(だからいまでも独身なのか…)。
「君は狸蕎麦にしたまえ」!! 私が狸蕎麦が好物なのもご存知なの、中禅寺さん!? とはさすがに思いませんが(^^;
 とりあえず関口君が蕎麦アレルギーでも饂飩のほうが好きでもないことは踏まえた上でのこのセリフでしょう、と思いたい。
 でもっていざ食べ始めたら、関口が狐饂飩のおあげが羨ましくなってじーっと凝視するので、
「まったく君は小食でたいして食べないくせに、他人が食べているものはうまそうに見えるのか。口のいやしい奴だ」
 とか悪態つきながら、ひと口かじったそれを関口のどんぶりに入れてやったりするんだろうなー…
 え?ドリー夢炸裂しすぎですか?
 でも、第1作いきなり滔々と始まる京極堂の薀蓄に一段落ついて、読者もほっとできるエピソードで、緩急のつけ方の巧みさに、「この作者、タダ者ではない!」と感嘆したシーン内のセリフでもありました。
「君は狸蕎麦にしたまえ」…京極堂に言われてみたい…。
ロイマニア 36歳 女性 北海道

コメント爺 爺のコメント ロイマニアさんもこのセリフでここまで妄想、いや想像するとは、タダ者ではないぞ。
 ワシは狸蕎麦が好物じゃ。当然ながら蕎麦の前に熱燗。肴は蕎麦味噌と出し巻き卵じゃあ。

「くわなかったら?」
 晶はいった。目に挑むような光があった。
「俺がくらわしてやる」
『新宿鮫』 大沢在昌
光文社文庫 … P63
 鮫島がこの台詞を言った後も晶との会話は普通に続くのですが、私は鮫島のこの台詞がとても印象に残っています。理屈抜きでかっこいい。
 私もいつか同じ台詞を言おうと思ってチャンスを狙っていますが、言えずに10年近く経過しています…。
マイヤー・マイヤー 27歳 男性 東京都

コメント爺 爺のコメント  鮫島もカッコイイのう。ワシも言ってみたいのう。
「狸蕎麦をくらわしてやる!」
 あ、違ったか……。

「悲しいやねえ、人ってェのはさあ」
『巷説百物語』 京極夏彦
角川文庫… P511
 いつも気丈な又市さんが言うからこその重みがあるような気がします。人間のどうしようもなさは、どうしようもない……みたいな? 違うかもしれないんですけど。
 この話読んでると、すごい悲しくなります。
「どうにかしてくれよ!」と何かに訴えたい気分です。
愛千 25歳 女性 茨城県

コメント爺 爺のコメント そんなときはホレ、ワシと狸蕎麦でも……。うおっ、後ろからすごい怖ろしい気配が……。

「それでも、思うんです。思ったんです。どうしようもなく、理由なんかなしに、こういうことが、起きるときがあるんだって」
 愛情を注いで、懸命に育ててきた我が子が、自分の手から離れて、親の目には見えない流れにすくいとられて、みるみるうちに遠ざかってゆく。手が届かない。声が届かない。振り返ってくれた子供と目が合っても、そこには理解しがたい暗い色が見えるだけだ。
「残酷で、恐ろしくて理不尽だけど、どうすることもできないまま、我が子が流されてゆくのを、ただ呆然と見ているしかない、そういうことが起こるときがあるんです」
『楽園』 宮部みゆき
文藝春秋(下巻)/単行本 … P344
 この言葉を読んだときに、今私が子供との関係で悩んでる状況がそうなんだと、しみじみと思いました。
 宮部さんは子供がいないのに、何でこんな親の気持ちが分かるのか、それとも、一歩下がった目からは、こんな状況が分かるのかと?
 良かれと思ってやってる事が全部裏目に取られて、でもやっぱり、自分の生んだ子供なので、突き放しきれずに気にかかるし、そのジレンマの中で堂々巡りをしている親です。
 女姉妹の長女の特徴でしょうか。私自身二人姉妹の次女なので、姉との関係にも同じ事が現在進行中です。
 自分の長女と姉との関係に悩んでる所に、この本を読んで、なるほどと思いました。
さくら1192 54歳 女性 富山県

コメント爺 爺のコメント 本を読んでいると、自分が感じてるけど言葉にできないモヤモヤ感をズバッと言葉であらわしてる文章に出会うことがあるよなぁ。あれ、すごいタイミングで訪れるね。
 きっとしっかり者なんじゃろうね、さくら1192さんは。
 たまには肩から荷を下ろして、ワシと狸蕎麦でもたぐりに行こうか!
 あッ、婆さんが……イテテッ!

「なる程、先程の話の補足になるわけか。辻褄合わせに脳の野郎が出して来る在庫の品にそういうものが混じっていることもあり得る訳だね」
『姑獲鳥の夏』 京極夏彦
講談社文庫 … P60
 京極堂が記憶などの話をした後に関口の発する台詞ですが、この「脳の野郎」という表現が本当に可笑しくて読むたびに突っ込みを入れてしまいます。
 関口が自分の脳に自信をもてなくなった後、脳に腹を立てている(?)様子が伺える台詞だと思います。
胡乱な目 15歳 女性 新潟県

コメント爺 爺のコメント ワシの「脳の野郎」もずいぶん危うくなってきやがったわい。昨日食べたものすら思い出せないぞ。
(ゲスト出演の婆さん:「狸蕎麦ですよっ!」)

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