第25回 (2010/5/28)
脱力のナカグロ
「わ・し」
『南極(人)』 京極夏彦
集英社/単行本 … P27他
 これほど脱力させ弛緩させる間の抜けたナカグロは凶暴的ですらありました。
 一分の隙もない稠密かつ緊迫的京極作品の中でその破壊力といったら。
 余談ですが、リーディングカンパニーvol.7で京極先生が読まれた「わ・し」は、正に完璧な理想の「わ・し」音声でした。
 帰宅後、「わ・し」を練習しましたが、瀕死のジジイみたくなったり、意味ありげになったり、あまつさえコケティッシュになったりと。
 京極先生のあの下らない感じ(褒めてます。もちろん)を醸し出すにはどうしても遠く及ばず。
お岩木 39歳 女性 愛知県

コメント爺爺のコメント  まさに脱力のナカグロじゃな。ワシも試しにやってみたが、それこそ「瀕死のジジイ」になってヤバかったんじゃよ(笑)。厨子王の域には達せそうにないわい。

 お吉は顔をそむけた。そして鋭く言った。
「あんただって馬鹿囃子じゃないか」
『本所深川ふしぎ草紙』 宮部みゆき
新潮文庫 … P160
 これほどドキリとしたことは、めったにありません。自分の心を見透かされた、と感じました。
 私も、この物語を読みながらお吉に対して優越感を抱いていたと思います。人殺しの話をでっち上げている場面では、おとしが思ったように「気味が悪い」と感じ、途中からは「そんな風にしか考えられないなんて…」と、哀れんでいました。私の彼女に対する感想は、常に上から見ているモノだったのです。
 そこに、この馬鹿囃子。
 ああ、私も馬鹿囃子だなぁと思いました。人の心を見ようとしない。見た目や立ち振る舞いに惑わされて、本当に価値あるものを見過ごす。なんと滑稽な馬鹿囃子か。
 そんな馬鹿囃子が、真面目だった彼女の心を壊してしまったのだから、本当に申し訳ないです。
 これからは、人の本当に価値あるところを見つけて、それを尊重できるようになりたいと思います。
 彼女が良くなることを、信じています。
小染月 15歳 女性 兵庫県

コメント爺 爺のコメント 現代社会ではたとえ今日はおとしの立場でも、明日はお吉になりうるわけで、いろいろと考えさせられるセリフじゃな。小染月さんはお若いのにきちんと考えておられて、立派じゃよ。爺などいまだに婆さんに叱られ…あ! 婆さん、やめて〜!

 ——恐がらせて、ほしい、すか?
『無間人形 新宿鮫IV』 大沢在昌
光文社文庫 … P69
 という角の台詞。
 彼のこの言葉で彼が実は悪く、そして強い人だということが読み取れる。
 格好いい!
 この一言で角に惚れました。
storm 20歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント ヤクザには見えない男前の角の言葉だからこそ、凄みも増すんじゃのう。stormさんは悪くて強い男が好みなのかな。悪い男に惚れるのは小説の中だけにしておこうなー。

「人は人を救えないよ、関口君」
 京極堂はそう云った。
「僕は神や仏ではなく、人だ」
「そうだ。嘘っ八だ。嘘っ八になってしまったんだよ。だから人は他人に騙されるか自分を騙すか、そうでなければ——」
 自分の目で現実を見て自分の足でその場所に立つしかないんだと——。
『陰摩羅鬼の瑕』 京極夏彦
講談社文庫 … P1182
 今まで沢山の事件を解決に導いてきた京極堂の、なんとも哀しい、彼の憑き物落としの根底を支える言葉だと思いました。
 現実は、その人にとって残酷なものであるかもしれないが、目を開けて受け入れなければいけないものでもある。現実から目を背け続けている人間にとってはとても痛くて、心に沁みる言葉です。
メグ 21歳 女性 福島県

コメント爺 爺のコメント ワシは、実は憑き物落し3級?資格を、厨子王から与えられておるのじゃ、それだけに、メグさんが「人は人を救えないよ。」の言葉に感じた現実は、修行するときに大事な命題となるのじゃ。ワシは自分を騙し騙しなんとか余生をおくるつもり。あっ、だから2級になれないのか。

「そう深刻に考え込まないで。いい意味でも悪い意味でも、まわりは、そんなに深く、きみのこと気にしてないって」
『スナーク狩り』 宮部みゆき
光文社文庫 … P261
 自意識が過剰で、失敗して周りに笑われたり注目されてりするのがすごく怖くて、人前で何かすることに対して必要以上に緊張してしまうことに悩んでいた自分に、その言葉はぐさりとささりました。
 ちょっと考えれば当たり前なのに、ずっと自分で気づくことができなかった事実でした。
 周りの目が怖くなってしまいそうなときは、この言葉を思い出しています。
アカシ 20歳 男性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント アカシさん、周りのことが気になり、怖くなるって、通過点のひとつじゃないかとワシは思うんじゃ。
 いい加減な日常を生きてないからこその気遣いかのう、ふむ。まあ、周囲の迷惑を考えずに、マイペース過ぎるのも、なんだかなだけど……。
 たしかにこのセリフ、しみるわい。

「朝だから起きるに決まっているだろう。僕が起きなくちゃいつまでも朝が来ないじゃないか。陽が出なくっちゃ農民が困る」
『百器徒然袋—雨』 京極夏彦
講談社ノベルス … P67
 容姿端麗で性格が破綻している傑物、という登場人物には他にも出会ったことがありますが、ここまで潔く天動説型人間を誇り胸を張って主張されるのは初めてでした! 彼を中心に太陽も動いているのですね。
 神を自称する台詞も数多いですが、多神教ではただ一人の神が絶対的な存在とは言えませんし、むしろこの物言いに全てが表れている気がします。
 読んだ瞬間に、京極堂びいきだった頭が榎木津に切り替わりました。それ以来ずっと榎木津のファンです♪
座敷童子 20歳 女性 東京都

コメント爺 爺のコメント 榎木津はいいなー。得だなー。こんなこと言い放って、女性から「好き」って思われるんだもんなー。
 榎木津のセリフの時、何回かに1回はこうつぶやいちゃう爺であった。

「君は、私が深く知りあう、人生最後の女性になるだろう。初めは、塚本の娘ということに興味を惹かれた。今は、そのやさしさが愛おしい。私は、君のやさしさだけを心にとどめておきたい」
『流れ星の冬』 大沢在昌
双葉文庫 … P309
 主人公の葉山さんの言葉。
 何か言いようのない男の悲壮感が胸をわくわくさせる感じがします。
 論語に40歳を不惑、50を知命と言いますが、あたかも葉山さんは天命を知りながら言っているような気がしてならないのです。
 さて、今の私には、果たして「人生の最後の女性になれる」そういう女性はいるんだろうかなあ〜〜と、苦笑をもらしながら、我が人生を顧みます。
青大将 51歳 男性 韓国

コメント爺 爺のコメント  惚れっぽい爺としては、いつもいつも最後と思っておるのだが、ついつい。葉山が心底惚れこんだような女性と出会ったことがないからじゃな。青大将さんも出会えると信じ続けて欲しいものじゃ。

「こんなに人が死んでるのに。どうして俺はまだ死なないでいるんだろ。さっさと死んじまえばいい人間なのに、なんで俺だけ生きてるんだろ」
『模倣犯』 宮部みゆき
小学館/単行本(下巻) … P624
 自責感とか罪悪感を持って生きている人にとって、こう思ってしまうことは致し方ないのじゃないかな、と感じます。もちろん正しくはないし、傍から見たら信じられないでしょうけど…、当人の気持ちとしてはすごくまっとうな心理描写だと思います。
 この作品は本当にたくさんの人々が出てきますが、それぞれの人にピタリと台詞や心理をあてはめてくる宮部さんには脱帽です。
ミカヅキ 29歳 女性 神奈川県

コメント爺 爺のコメント 確かに爺なんかたいして世の中の役に立ってもいないのに長生きしすぎじゃ。ただ図々しいから、なんで爺だけがなんて思わんのだが、責任感が強かったり真面目な人ほどそう考えるのじゃろう。不慮の死を遂げた人間の悲しみがわかる分、きっと強く生きていけると思うぞ。

「居るかどうか判らないよ。存在が確認されちゃったらもう妖怪じゃなくなっちゃうじゃないか。判らないから妖怪なんだろうが」
『今昔続百鬼—雲』 京極夏彦
講談社文庫 … P63
 多々良大先生の台詞。
 センセイの台詞には賛同する。正体が判ったら妖しくも怪しくもない。雪男の正体はゴリラだと友達が言っていたが、ゴリラだと面白くない。
 妖怪を愛するセンセイの台詞だった。
北堅 13歳 男性 埼玉県

コメント爺 爺のコメント その居るかどうか判らない存在を探し求めて日本全国どこまでも…。周囲の人物はどんどん多々良先生に巻き込まれていくんじゃよな。
 北堅さんもその巻き込まれた一人じゃ。

「僕、誰かの役に立てると思うよ。僕だけじゃないや、みんな、そのために生きているんじゃないの?」
『龍は眠る』 宮部みゆき
新潮文庫 … P523
 10年くらい前にはじめて読んでから、1年に1回ほど読み返している作品です。毎回好きなシーン、セリフは違っていますが、今回はこのセリフ。
 ハッとさせられました。
 同じ様な日々をただなんとなく過ごしていく毎日で、「これじゃダメだ」、初心に返ってがんばろう。もう一度、自分を、誰かを信じてみてもいいかな…?
 そんなふうに思えてきました。
ソナコ 30歳 女性 群馬県

コメント爺 爺のコメント 自分の存在意義を見いだせている人っていうのは、どれくらいいるもんなんじゃろう。
 ソナコさんのように、自分自身を見つめなおすっていうのは大切なことじゃよな。そうやって人は成長していくんじゃろうなぁ、とワシは思う。

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