名ゼリフ大全　第29回

第29回（2012/7/3）

ご無沙汰じゃった

「非合理的だからあり得ない、不自然だから間違っている——そんなことはないんだよ。世の中は矛盾や不具合で満ち満ちている。普通なら信じられないような事態でも、起きる可能性があれば平気で起こる。起きる確率が異様に低い出来事でも、偶然起きないとは云い切れない。それでいて、起こり得ないことは何がなんだって絶対に起きない。どんなにありそうなことでも起きないものは起きない。何となく空でも飛びそうな男が居たとしたって、人間は絶対に宙には浮かない。だからこそ」
　この世には不思議なことなど何もないのだと、中禅寺は云った。

『邪魅の雫』　京極夏彦

講談社文庫 … P576

　中禅寺さんが青木さんを諭す言葉ですが、言霊を使う人間ならではの絶対的な線引きを匂わせてます。
　私は法務関係の仕事をしていて、ともすれば「確からしい」ことを「確か」にしてしまいたくなる事があります。
　言葉で白を黒にしてしまえる立場だからこそ、「本当」を見失ったり、意図的に目を逸らしてはいけないと痛感させられました。

ないとめあ　25歳　女性　兵庫県

爺のコメント　ないとめあさんは、きっと真面目な人なんじゃろうな。その思いを大切にして過ごしておくれ。

「そうだな。だが、真面目と真剣は違うぞ」

『長い長い殺人』　宮部みゆき

カッパノベルス … P253

　宮部さんの作品を『月9ドラマスペシャル』を機に読み返しています。
　初読の頃には若すぎて、つい見逃していましたが、ある程度の分別が出来るようになったいま、明確にこの言葉の意味がわかるようになりました。
　思い返すと「真面目」と「真剣」を混同してしまっている人(日常の自分も含めて)、結構いますね。
　軽く頬をぶたれたような、それなのに心地良い言葉に出会えました。

大阪の隅っこ　44歳　男性　大阪府

爺のコメント　ワシも今回のドラマ化を機に読みかえした派じゃ！　そうそう分かる分かる。最初に読んだ時はわしも若過ぎて見逃しておった、いいセリフじゃな〜。
　あれ？　その当時、すでに爺だった気が……。

「警察官が危険を避けたら、それは警察官じゃない。君にいうのもおかしな話だが」

『絆回廊　新宿鮫X』　大沢在昌

光文社/単行本 … P340

　5年ぶりに書かれた新宿鮫の渾身の1行がこれ。私流に訳せば、『苦しみや困難から逃げてるような生き方で何が人生だ！』と言うメッセージに受け取れた。
　大沢流のハードボイルドは、逃げないで困難や恐怖に討ちかって自分の生き方を貫くという事が最大のテーマにあると思っています。
　絆という美しくも力強い言葉が題名に使われているこの作品はまさに大沢ハードボイルドの集大成に相応しい作品でした。

カズ　42歳　男性　東京都

爺のコメント　カズさんの訳し方はかっこいいな。これぞハードボイルドじゃ。

「怒ったり泣いたりするのは僕等生きている者の勝手で、死んだ人には無関係じゃないか。それに笑ってるから故人に敬意を払ってないと云うこともないぞ。本当の敬意は約束事のような涙ではない！」

『鉄鼠の檻』　京極夏彦

講談社ノベルス … P455

　いつも支離滅裂って感じがする榎さんですが、最後の一言はなるほどなぁ、って思ってしまいました。
　なんだか、京極堂にも通ずるものがあると思います。
　かと言って笑うのもどうかとは思いますが。

炒飯　15歳　女性　福島県

爺のコメント　どうしても人は見た目で判断してしまうからのお。やっぱりそれなりの態度でいたほうが誤解をうまなくていいというのはあるからな。
　爺ぐらいの歳になるとどうしても人目を気にしてしまうもんじゃ。

「一度自分が親しく思ったものが、どんな理由であれ離れてゆく。それが我慢できないというのも、立派な欲だと。（省略）別れるのが嫌だから生き物と親しまないというのは、賢いことではない…」「いつか別れるのではないかと、別れる前から怯えて暮らすのも、愚かなことだと教わりました。それは別れが怖いのではなく、自分の手にしたものを手放したくないという欲に、ただただ振り回されているだけのことなのだから」

『日暮らし』　宮部みゆき

講談社文庫（上巻） … P127

　あ〜、こんな考え方もあるのかぁ、と視線をしばらく上にしました。
　可愛がっていたペットが死んで以来、あんなに悲しいのならもう生き物は飼わない、と思っていたのに、最近犬とか猫とかがそばにいたら…なんて考えるようになって。
　でもやっぱり、と行きつ戻りつしていた自分。これで決心がついたかというとそうでもないんですがね^^;
　欲か…。結構ストンと落ちたのでした。

どんぐり　48歳　女性　東京都

爺のコメント　確かにいつまでも手元に置いておきたい、いてくれるはずだというのはエゴ、なんじゃろうな。
　別れも自然の摂理と受け入れるようになるには、爺のような凡人には人生修業がまだまだ足りんようじゃ。
　欲をすてて生きていくのは難しいのう。

「ああ？」

『百器徒然袋—風』　京極夏彦

講談社文庫 … P734

　なぜか先日急に、あれ、そういえば中禅寺さんのこんな台詞があったような…と思い出し、いてもたってもいられなくなってなんとか探し出しました。
　改めて読むと、いつもはスキのない中禅寺さんのスキがチラ見できたようで思わずニヤニヤしてしまいました！！
　中禅寺さんのスキ…最高に可愛いです！！
　この短い発言でだれか（私だけかもしれませんが…）を幸せにできるなんて、中禅寺さんは本当に素晴らしいです！！
　尊敬してます！！　師匠と呼んでもいいですか？

ちょみ　17歳　女性　茨城県

爺のコメント　普段は見られない中禅寺の反応じゃなあ。
　しかしよく探し出せたものじゃ。
　ワシが困ったときに口からもれる「うう・・・」でも人を幸せにできたらいいのう。

「驚きは最初だけさ。一度めは目を丸くした映像でも、二度三度とつづけば、人はアクビを噛み殺す。そうしていうだけだ。『ああ、それなら見たよ』。だがすぐれたムービーは次にどんなシーンがくるとわかっていても、『しっ、今いいところなんだ』という」

『影絵の騎士』　大沢在昌

集英社文庫 … P515

　面白い映画の定義とは？　と聞かれた時の答えがまさにコレ。
　映画好きは常にこういう作品に出逢いたいし、映画を作ってる人、作りたい人はこんな作品をいつかは撮りたいなぁーと憧れます。

masa　27歳　男性　東京都

爺のコメント　masaさんの想いは、映画業界のため息にも聴き取れるぞ。
　ほんにこれだぁ〜と言う映画に出会えない、いっそこの「影絵の騎士」を映画化すればそんな作品になるのでは・・・。

「何でもかんでも自分が自分が自分がと自己主張するくせに、悪いことや拙いことだけ他人や社会のせいにするなんて、正しい日本人の考え方じゃありません。輸入物の思想です。昔から日本人は、まず我が襟を正すという生き方をしてきたんです」

『楽園』宮部みゆき

文春文庫(下巻) … P297

　こういう人、今ホントに多いですよね。そういう人に限って、自分のことは完全に棚上げ。
　この台詞、私の周囲にいる方々にぜひとも聞かせてあげたいです。

M　43歳　女性　??

爺のコメント　そうだそうだ！！　Mさんのおっしゃるとおり。周囲にいる人って、まさかT電関係やお上？

「愉しい呪いをかけてあげるよ」

『百器徒然袋—雨』　京極夏彦

講談社ノベルス … P128

　大声で怒鳴り散らされるより、静かに刑を宣告されるほうが時に恐ろしいもの。中禅寺に告げられるならなおさらでしょう。この時の彼の顔を想像すると怖さ倍増。
　実際にこう言われたら恐怖で凍りつきそうですが、怖いもの聞きたさ(?)で一度言われてみたい気も…（声は京極夏彦先生のイメージで！）

キノ　19歳　女性　東京都

爺のコメント　しかも、"地獄の底から聞こえて来るような凶凶しい声"でだもんなー。おーこわ！

「さっきあたし、正直に答えれば殺さないって言ったよね？」
　男はバカみたいに嬉々としてうなずいた。その顔を見おろし、男と同じように目に喜色を浮かべて、淳子は言った。
「あれは嘘よ」

『クロスファイア』　宮部みゆき

光文社文庫（上巻） … P146

　こ、怖すぎる・・・しかし格好良すぎる！！！！
　この後色々なっちゃうけれど、この時だけは「淳子姐さん下僕にしてください！！　一生ついていきますっ！！！」って言いたくなります。額を地面に擦り付けて。
　まぁこの恐ろしき淳子姐さんのことだから、土下座した瞬間燃やされちゃうんでしょうけど。

とんじょ　14歳　女性　大阪府

爺のコメント　とんじょさんが、コント番組とかで焼けて頭がちりちりになったのを想像してしまった。
　淳子姐さんキャンプやバーベキューでで火おこす時、重宝がられそうじゃのう。